メグスリノキの薬学的研究


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 星薬科大学ではメグスリノキについて長年薬学的研究が行われている。研究が開始されたのは1972年頃からで、本学生薬学教室の井上隆夫教授(当時)らが着手したのが最初である。同教授の生家は京都の「井上目薬」という老舗であり、「めぐすり」のもつ縁が研究着手のきっかけとなった。

 研究は永井正博助教授(当時)が中心となって展開され一連のacerosideあるいはacerogeninと命名された多くの新規diarylheptanoid化合物が成分として明らかにされた 1) 。そうした中1986年にはマウスを使った動物実験から樹皮エキスに肝臓障害の予防効果が認められ、その活性成分の一つは(+)-rhododendrol であることが明らかとなった 2) 。この研究結果は当時マスコミにも取り上げられたため、それ以後メグスリノキの知名度が急上昇し、ブームのような状況となった。ただこの成分だけが活性成分のように取り扱われているが、それで説明できるのは活性の一部であり、他にも未確認成分が多数関わっていとみられる。なお漢方の古典に照らすと「肝臓は目に通ずる」との記載があり、メグスリノキのもつ肝臓障害予防作用も眼病と結びつくとの指摘もある。

 こうした研究成果をもとに井上教授の先代である伊沢一男元教授(故人)は《メグスリノキ》(マキノ出版)を出版し、同植物の史的背景や利用例を紹介された。この出版でメグスリノキは一層世の中に知れ渡るようになり、鉢植えしたものが盗難される事件まで報じられた。

 ところで、メグスリノキは山形−宮城以南の深山に自生する我が国固有のカエデ科植物で、カエデ科のなかでは珍しく三出複葉となる。他に同様の複葉となるのは我が国ではミツデカエデしかない。しかし本種は同じカエデ科ながらメグスリノキと近縁とは言い難くメグスリノキの特有成分も含まれていない。ケモタキソノミーの観点からその他の近縁種についても研究が行われた。対象になったのはAcer triflorum(韓国産)、Acer griseumおよびAcer mandhurica(中国産)などである。これらはいずれも三出複葉をもち、メグスリノキの近縁に分類されている。メグスリノキの成分は上述したようにdiarylheptanoidを含むことに特徴があるとされるが、diarylheptanoidにはcentrolobolに代表される鎖状型、acerogenin A に代表されるdiphenyl ether型、およびacerogenin Eに代表されるbiphenyl型の3タイプに分けられる(構造式参照)。メグスリノキ成分にはこの3タイプすべて存在することに大きな特徴があり、上記した他の外国産のものにはこれまで鎖状型の成分しか見つかっていない。またメグスリノキは特有の香気を放つが、外国産のものにはそれを感じない。

 最近の研究としては新成分の単離 3) 、epi-rhododendrinや(+)-rhododendrolによるNO生成抑制 4) (炎症の発生軽減に寄与する)などがみられる。本学では1980年後頃から筆者もメグスリノキの研究に参画している。研究の中心だった永井正博教授が定年退任されたが、その後も停滞気味ながら研究は継続されている。本年(2006)の日本薬学会第126年会には花粉症の病態モデル動物への効果を発表予定である。なお本稿で触れたカエデ科のメグスリノキ関連植物はすべて当薬用植物園で植栽している。


2006.2.10記  南雲清二

1)薬学雑誌 113(3), 181-197(1993).
diarylheptanoidとは2個のベンゼン環状を挟んで7個の炭素が鎖状に結合した骨格をも化合物の総称。
ウコン成分で有名なcurcuminなどもその一例である(鎖状型)。
2)生薬学雑誌40(2), 177-181(1986)
3)Chem. Pharm. Bull., 51(1), 62-67(2003)
4)Planta Medica, 64, 598-602(1998)
5)Chem. Pharm. Bull., 42(4), 960-962(1994)

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