フジバカマ Eupatorium fortunei (キク科)
有史以前の帰化植物という説と、元来日本に自生していたとする説があり、関東以西の土手などに野生しますが現在では個体数が減り、絶滅危惧U類になっています。上部の葉は長楕円形ですが下部のものは3裂する特徴があり、花序は5個の花をつけます。地上部全体を蘭草(らんそう)といい、民間薬として糖尿病や皮膚病などに用いられてきました。生の植物に香りはありませんが、収穫後半乾きにさせると芳香を放つようになります。古い時代、中国では芳香をもつ植物を「蘭」と称し、蘭草と呼ぶのはそれに因るものです。現在ではそれが転用されてラン科植物を一般に「蘭」と呼ぶようになりました。
秋の七草の一つであり、古くより香草としてよく知られた植物です。生の植物に含まれているo-クマリン酸配糖体が乾燥段階で加水分解され芳香をもつクマリンを生じます。最近フジバカマには野生型と園芸型という2タイプあることが明らかにされました。少なくとも東京近郊の園芸店で「フジバカマ」として流通しているものはすべて園芸型です。(写真は野生型)
ヌルデ Rhus javanica (ウルシ科)
日本、中国、朝鮮など東アジアに広く分布し、平地の二次林によく見られます。落葉小高木で、雌株と雄株があり、地下茎を伸ばしても繁殖します。葉軸に翼をもつ特徴がありますが、まれにそれがない個体もあります。
樹に傷をつけると白い乳液を出し、これを物に塗ったことからヌルデ(塗る手)の名がつきました。現在では樹液を漆として使うことはありません。ヌルデノミミフシというアブラムシ科の昆虫が葉の翼に卵を産み付け、それが膨れて耳たぶ状の虫こぶになります。秋になると成虫が虫こぶから飛び出しますが、その直前に虫こぶを採集し熱湯に通したものが生薬の五倍子(ごばいし)です。五倍子はタンニン酸、没食子酸などの製造原料や染料として、また煎液は止血、下痢止めなどに内服し、口内炎、歯痛、扁桃炎など外用薬としても使われます。かつては鉄漿(おはぐろ)原料としての需要もありました。果実は秋に熟すと表面にリンゴ酸の塩よる白い粉屑がつきます。これをなめると塩辛いところから塩麩子(えんふし)と呼んで咳止めなどに使われます。
テイカカズラ Trachelospermum asiaticum var. intermedium (キョウチクトウ科)
林床のいたるところに自生するつる性の常緑木本植物で、気根を出し他物に付着しながら這い登ります。葉は小型の卵状〜広披針形ですが成木の葉は2-3倍に大きくなり、同じ植物とは思えないほど印象が違ってきます。初夏の5-6月に白色の花(クリームやピンク色を帯びる場合もある)をつけ芳香を放ちます。花冠は5裂し、回旋状の配しプロペラ様にねじれる。径は2cmほど。果実は細長く長さ20cmとなり太さは鉛筆ほどで、2個ずつつくためつるの先端から菜箸がぶらさがっているように見えます。
葉や茎を絡石(らくせき)という生薬名で呼ぶ場合があり、絡石は強壮解熱にも用いられ、強心作用があるとされています。ただ絡石は別の植物を基原とする場合もあって、利用する場合は安全性に注意が必要です。植物名は鎌倉時代前期の歌人である藤原定家(ていか、さだいえ)に由来し、定家が思いを寄せていた式子内親王(しょくしないしんのう)が亡くなった後、その墓に絡みついた植物が本種だったという二人の激しい恋の伝説によります。
メグスリノキ Acer nikoense (カエデ科)
山形-宮城以南の深山に分布する日本固有の落葉高木です。雌雄異株。葉はカエデ科では珍しく三出複葉になり、紅葉がみごとなことでも知られています。
樹皮成分に肝臓の防御作用や抗炎症作用が報告されていますが、研究報告はあまり多くありません。一方成分研究はかなり進んでおり、本種特有の成分も見つかっています。今後これらの特有成分について生理作用解明が期待されています。かつてはあまり知られた植物ではありませんでしたが、1970年頃珍しいタイプの成分が学会で研究報告されて以来薬木として非常に有名になりました。ただ、薬用にしていたという具体的な記載のある古い文献は今のところ見つかっていません。しかしいろいろな伝承をみると昔から葉や樹皮を洗眼に外用したり、煎液を服用していたようです。植物名はその薬効に由来するものとみられますが、「チョウジャノキ」「センリガンノキ(千里眼の木)」といった別名があり、同じような由来だとみられます。
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